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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)1154号 判決

判   決

上告人

右代表者法務大臣

賀屋興宣

右訴訟代理人弁護士

吉永多賀誠

徳田敬二郎

被上告人

吉野東市

被上告人

川口仲三郎

(ほか四名)

右被上告人五名訴訟代理人弁護士

鈴木匡

大場民男

亡大口源兵衛訴訟承継人

被上告人

大口淳一

(ほか一三名)

右当事者間の売掛代金請求事件について、名古屋高等裁判所が昭和三五年七月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告申立があり、被上告人吉野東市、同川口仲三郎、同村上忠七、同伊藤清正、同古川武男および同高坂秋三は上告棄却の判決を求めた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人吉永多賀誠、同徳田敬二郎の上告理由第一点および同第二点について。

所論は、原審の確定した事実によれば、本件株式の払込は単に外形上払込の形式を整えたに過ぎず、いわゆる見せ金による払込であつて、現実に払込のなされたものでないことが明らかであるのに、右仮装の払込を以て真実の払込としてその効力を認めた原判決には、商法一七七条一項の解釈適用を誤つた違法があり、また、本件のような仮装の払込について、発起人たる被上告人らに同法一九二条所定の払込責任を負わせないためには、なんらかの事情がある筈であるのに、かかる特段の事情を判示することなく、有効な払込があつたものと認めて被上告人らの払込責任を否定した原判決には、理由不備の違法があるという。

よつて審案するに株式の払込は、株式会社の設立にあたつてその営業活動の基盤たる資本の充実を計ることを目的とするものであるから、これにより現実に営業活動の資金が獲得されなげればならないものであつて、このことは、現実の払込確保のため商法が幾多の規定を設けていることに徴しても明らかなところである。従つて、当初から真実の株式の払込として会社資金を確保するの意図なく、一時的借入金を以て単に払込の外形を整え、株式会社成立の手続後直ちに右払込金を払い戻してこれを借入先に返済する場合の如きは、右会社の営業資金はなんら確保されたことにはならないのであつて、かかる払込は、単に外見上株式払込の形式こそ備えているが、実質的には到底払込があつたものとは解し得ず、払込としての効力を有しないものといわなければならない。しかして本件についてこれを見るに、原判決の確定するところによれば、訴外中部罐詰株式会社は資本金二〇〇万円全額払込ずみの株式会社として昭和二四年一一月五日その設立登記を経由したものであるが、被上告人吉野は、発起人総代として同じく発起人たるその余の被上告人らから、設立事務一切を委任されて担当し、株式払込については、被上告人吉野が主債務者としてその余の被上告人らのため一括して訴外第一銀行名古屋支店から金二〇〇万円を借り受け、その後右金二〇〇万円を払込取扱銀行である右銀行支店に株式払込金として一括払い込み、同支店から払込金保管証明書の発行を得て設立登記手続を進め、右手続を終えて会社成立後、同会社は右銀行支店から株金二〇〇万円の払戻を受けた上、被上告人吉野に右金二〇〇万円を貸し付け、同被上告人はこれを同銀行支店に対する前記借入金二〇〇万円の債務の弁済にあてたというのであつて、会社成立後前記借入金を返済するまでの期間の長短、右払戻金が会社資金として運用された事実の有無、或は右借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無等、その如何によつては本件株式の払込が実質的には会社の資金とするの意図なく単に払込の外形を装つたに過ぎないものであり、従つて株式の払込としての効力を有しないものではないかとの疑いがあるのみならず、むしろ記録によれば、被上告人吉野の前記銀行支店に対する借入金二〇〇万円の弁済は会社成立後間もない時期であつて、右株式払込金が実質的に会社の資金として確保されたものではない事情が窺われないでもない。然るに、原審がかかる事情につきなんら審理を尽さず、従つてなんら特段の事情を判示することなく、本件株式の払込につき単にその外形のみに着目してこれを有効な払込と認めて被上告人らの本件株式払込責任を否定したのは審理不尽理由不備の違法があるものといわざるを得ず、その結果は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は、その余の論点に対する判断を俟つまでもなく、破棄を免れない。

よつて民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 奥 野 健 一

裁判官 山 田 作之助

裁判官 草 鹿 浅之介

裁判官 城 戸 芳 彦

裁判官 石 田 和 外

上告代理人吉永多賀誠、同德田敬二郎の上告理由

一、原審における上告人の主張

控訴会社は、その全額払込みずみと称する資本金二百万円については、控訴人吉野東市個人名義で、訴外株式会社第一銀行名古屋支店より一時借受けた金二百万円をもつてこれに充て、あたかも二百万円の株金全額の払込みがあつたように仮装したうえ、会社設立登記を経由したものであつて、現実には右資本金二百万円についての株金の払込を全く受けていない。従つて控訴人等(控訴会社を除く)は、控訴会社の発起人として、控訴会社に対し連帯して右末払込株式金二百万円及びこれに対する同株金払込期日の翌日である昭和二十四年十一月五日より右払込ずみに至るまで、控訴会社定款所定の日歩四銭の割合による損害金を支払うべき義務があるところ、控訴会社は営業不振で債務超過の状態にあり、第一に記載した被控訴人に対する支払債務を弁済する資力がないにもかゝわらず、右控訴人等に株金等の払込み請求をなさないから、被控訴人は、前記控訴人会社に対する債権を保全するため代位して、控訴人等(控訴会社を除く)に対し、右未払込株金二百万円及びこれに対する前記昭和二十四年十一月五日より右支払ずみに至るまで日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求める。(原審判決第五丁裏第十行目から第六丁裏三行目まで)

二、右上告人の主張に対する原審の判断

先づ、本訴請求原因事実のうち、右控訴人等の控訴会社に対する株金払込義務の存否について考えてみる。

控訴会社は、被控訴人主張のような目的をもつて、資本金二百万円全額払込みずみの株式会社として、昭和二十四年十一月五日その設立登記を経由したものであることは、当事者間に争いのないところである。

ところで成立に争いのない甲第一号証の四ないし八、十七、十八、印影の成立につき争いがなく従つて真正に成立したものと認められる同号証の九ないし十五、原審証人梶川有、同大島彦太郎、同原貞雄の各証言、原審における控訴人神藤の供述、原審および当審における控訴人吉野、同川口、同伊藤(当審の分は第一、二回)の各尋問の結果を総合して考えると、控訴人吉野は昭和二十四年秋頃、資本金を二百万円とし自ら主宰する控訴会社の設立を計画し、その設立発起人として他の控訴人七名の承諾を得た上、右のような関係からその発起人総代として設立事務一切を委任されて担当し、同年十月八日控訴会社の定款を作成して公証人の認証を受けたこと、右各発起人の払込むべき株金(控訴人吉野は八千株で四十万円、他の控訴人七名はそれぞれ二千ないし四千株で十万円ないし二十万円)の調達については、控訴会社の設立を急いでいた関係もあつて、控訴人吉野が主債務者となり他の控訴人等のため一括して訴外株式会社第一銀行名古屋支店より金二百万円を借受けることゝなり、他の控訴人等においてその連帯保証人となつたこと、控訴人吉野は右借受けにかゝる二百万円を株金払込取扱銀行たる右訴外銀行名古屋支店の控訴会社の株式払込金として払込み、同支店よりその保管証明書の発行を得て、その後の設立登記手続を進め、前記の通り同年十一月五日その設立登記手続を完了したことが認められる。被控訴人は、控訴人吉野がその余の控訴人をも代理して右第一銀行名古屋支店に控訴会社の株金払込み二百万円をなしたことを否認し、右はいわゆる預け合い又は見せ金であつて株金の払込みを仮装したものである旨主張するが、前掲各証拠とくに甲第一号証の八、十八及び原審証人梶川、同大島、同原の各証言によれば、控訴人吉野より実際に右株金の払込みがあつたものであること、右払込資金は前示のように第一銀行名古屋支店より借受けたものであり、右銀行は該金員貸付に当つて、吉野を主債務者とし他の控訴人七名をその連帯保証人としていることが認められるのである。なるほど、右のように、払込資金の借入銀行と株金払込取扱銀行とが同一であること、又、前掲各証人の証言及び控訴人等の本人尋問の結果によつて明かなように、控訴会社がその成立後右株金二百万円の払戻しを受け、これを控訴人吉野に貸付け、同人においてこれを右借入金の弁済に充当しているのであつて、その間不明朗な印象を与えることを免れぬが、このような結果的事象だけをとらえて直ちに前記の認定をくつがえし、右払込みをして虚偽仮装のものなりと断定することはできない。

従つて控訴人吉野が他の控訴人七名に対し、その立替支払をなした株金払込充当金の償還請求権、又は前記理由第一において説明した関係から控訴会社において控訴人吉野に対し損害賠償請求権等を取得しうることの余地あるは格別、控訴会社が控訴人吉野又は他の控訴人等に対し、右各控訴人等において未だ株金の払込なく、従つてその払込請求権があるものとして、その代位行使を云為する被控訴人の右主張はとうてい採用し難いといわねばならぬ。よつて被控訴人が控訴会社に対する前記売掛代金残額請求権を保全するため、右株金払込請求権を代位行使せんとする本訴請求は、他の争点につき判断するまでもなく、失当として棄却を免れ得ないものである。(原審判決二十丁裏二行目から二十二丁裏八行目まで)

三、上告理由

第一点 原判決には判決に影響を及ぼすことの明なる法令の違背がある。即ち原審判決は商法第一七七条の解釈適用を誤つた不法がある。

商法第一七七条第一項は会社の設立に際しては発行する株式の総数の引受ありたるときは発起人は遅滞なく各株に付その発行価額の全額の払込を為さしむることを要すと規定する。

右は発起人は各株につき各引受人をして現実に払込をなさしむることを要することを規定したもので、各引受人に代り発起人が払込みをなし或は現実の払込に代え仮装の払込をすることを以て足るものではない。

先づ第一に各株式引受人に払込をなさしめることを要する。各引受人に払込をなさしむるとは各株式引受人をして株式払込義務を履行せしめ、設立中の会社が各株式引受人に対して有する株式払込義務を完了させ、会社の株式払込請求権を満足させること、別言すれば現実の払込により会社の株式払込請求債権を消滅させることである。これがためには各株式引受人に会社成立後はその会社の資金とする意思で株式の払込をさせ、払込金は設立会社の資金となることを要する。従つて当初から会社成立後その資金とする意思なく、他から一時的借入金を以て払込の外装を整え形式的に払込金と称しても実質的には払込金ではない。

株式引受人が株式の払込をしたかどうかは、会社とその株式引受人との間に株式の払込が行はれたか否かの問題であつて、株式払込取扱銀行と発起人との間の問題ではない。従つて株式払込取扱者が株式払込保管証明書を発行したかどうかは問題ではない。依つて株式払込取扱者が株金全額の払込証明書を発行しても、各株式引受人の現実の払込がない限りその払込は未済であつて、株式の払込が行はれたことにはならないから、発起人は商法第百九十二条第二項による株式払込義務を免れない。本件の場合は株式引受人(発起人及び応募者)中一人も現実の株式払込をしたものがなく株式の払込は未済である。この事実は成立に争のない甲第四号証の三控訴会社の貸借対照表に表はれている。即ち株式金額に相当する金二百万円は貸借対照表借方の部に社内貸付金として記載してある。右は現実の貸付金にあらずその実体は株式払込請求債権であり、その内容は未払込株金である。各株式引受人が現実の株式払込を了していないことは左の証拠により明かである。被上告人古川武男の第一審供述第三問末尾に「但し右株金を現実に払込んだことはありません」、被上告人吉野東市の第一審供述「被告会社の株式払込金の取扱は第一銀行名古屋支店でやつて貰いましたが、株金は各株主が現実に払込んではおりません」、被上告人川口仲三郎の第一審供述「私は現実には払込をしておりません」、被上告人神藤嘉一の第一審供述「私は現実に被告会社に株金に相当する金を払込んでおりませんし又銀行えも返済しておりません」、被上告人伊藤清正の第一審供述「私は会社に株金を現実に払込んだことはありません」、証人(応募株主)笹原元吉の第一審第一回供述第十問「私は株式の申込はいたしましたがまだ金は払込んでありません」及び同証人第二回証言「前回の証人調書第十項に述べた通り相違ありません」。以上の如く各株式引受人の株式払込のないことは一件記録において明白である。

第二に株式払込は現実に行はれていない。成立に争のない甲第一号証の十七によれば控訴会社の発起人吉野東市が控訴会社の株主二十名の代理人として株式会社第一銀行名古屋支店から控訴会社の株式払込金二百万円全額を借受け、右吉野東市を除く他の発起人が連帯保証人となつている。而し右借入金は控訴会社成立後その登記薄抄本をとり右銀行の当座預金に繰替え控訴会社の小切手で返済をしている。(原審の採用した証人梶川有の証言)

成立に争のない甲第四号証の二(名古屋管区経済局監査部から経済調査庁監査部長に対する中部罐詰株式会社の調査報告書)によると、控訴会社の資本金は二百万円であるが昭和二十四年十一月四日に第一銀行名古屋支店より二百万円借入れ見せ金で払込をして設立された会社にて十一月二十一日銀行に全額返済され之に代る現物出資もなく払込資本は皆無である、とあり、原審における被上告人吉野東市の供述第十八問乃至二十問、第五十六問乃至第五十八問は之と全く符節を合している。

商法第一八九条第二項は前項の(株式払込を取扱いたる)銀行又は信託会社は其の証明したる払込金額につき払込なかりしこと又は其の返還に関する制限を以て会社に対抗することを得ずと規定する。右は株式払込取扱者に払込証明に関する責任を負はしめ以て預合の弊害を防止し会社設立の安全を期せんとするものではあるが、一面現実の払込を強要する趣旨をも規定するものと考える。本件の場合株式会社第一銀行は成立に争のない甲第一号証の十七、日附空欄の株式払込金借入保証書をとり成立に争のない甲第一号証の八、株式払込金保管証明書を発行し之を被上告人吉野東市に交附し、右吉野は昭和二十四年十一月五日成立に争のない甲第一号証の一、株式会社設立登記申請書に添付して名古屋法務局に提出し、爾後同法務局において調査、受理、登記、照合の手続を経て、十一月二十一日登記薄抄本を得、これを株式会社第一銀行に提出し、同銀行は控訴会社から当座預金取引契約書を取付けた上、右株式払込保管金を当座預金に振替え同時に控訴会社に小切手帳を交附し即時に金二百万円の小切手を振出させ、当座預金に振替えた株式払込保管金を払出し、株式引受人等の右銀行に対する借入金の返済に充当した形式を履践したもので、その間現実に金員の移動はなく唯甲第一号の八と同号証の一七が存在したにすぎない。此の場合株式払込金の返還に関する明示の制限はないとしても事実上、株式払込保管金には預金証書がないこと、会社成立まで払戻の出来ないこと、当座預金は小切手によるの外支払を求め得ないことの特質を利用し、株式払込金を当座預金とし、小切手振出の方法により発起人等の銀行に対する借入金二百万円の決済あるまで、控訴会社の株式払込金を引出せない方法を採用し以て株式払込を仮装したものである。右控訴会社は払込株金を以て発起人等の銀行に対する借入金を返済し、控訴会社は払込株式金皆無となり払込欠如という真実の姿態をあらわしたのである。この株式払込金皆無の状態は当初から計画せられ、仕組まれた一連の作為で、右貸付及び返済は悉く仮装であり、偶然の結果ではない。原審判決は払込資金の借入銀行と株金払込取扱銀行とが同一であるが故に不明朗な印象を与えることを免れぬが、このような結果だけをとらえて、右払込をして虚偽仮装なものなりと断定することはできないと判示したが、現実の払込がなく一時的借入金を以て株式払込の形式を整えたのでは縦令その借入先が株金払込取扱銀行でなくても、株式の現実の払込のないという結果を左右することはできない。その実例は東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第八〇五四号同三二年九月六日判決、下級裁判所民事判例集第八巻一六五八頁にある。

尚甲第一号証の八の株式払込金保管証明書は架空の事実の証明であることが訴訟上明白である。第一審名古屋地方裁判所は昭和二七年一一月二八日の口頭弁論において原告の申出により株式会社第一銀行名古屋支店から二百万円借入関係書類取寄を許容し、同裁判所から同銀行に対し、(1)昭和二四年一一月中部罐詰株式会社発起人代表吉野東市よりの借入申込書、(2)右借入についての連帯保証書、(3)貸付書類、(4)返済書類の取寄方嘱託したところ、右銀行は同裁判所に対し「当店にては同社に貸出実績なく従つて該当書類なき」旨回答した。第一審証人梶川有(第一銀行名古屋支店長)は第一審において「その貸付条件等は当時の記録がないので判りません」と証言している。右の事実は右貸付につき銀行に貸付禀議書、貸付金出金伝票、保管金振替伝票、貸付元帳の記載、現金出納薄上の記載、貸付金決済時の入金伝票、振替伝票、入金に関する出納薄、貸付元帳の記載等一切存在しないことを明かにするもので、甲第一号証の八は架空の証明書と断ぜさるを得ない。

商法第一七七条が株式の現実の払込を強要し、同法第一七八条、第一八九条、第四九一条の規定を設けたのは、株式会社の資本団体たる本質を保ち、会社債権者及び株式払込をした株主の利益を保護するため資本の充実を強制する法意に出たものである。(大正五年(オ)第二九三号同五年一〇月二五日第三民事部判決・民録第二二輯一九六七頁、大正六年(オ)第五六一号同六年一〇月一三日第三民事部判決・民録第二三輯一五八〇頁)故に株式の払込は形式ではなく現実であることを要する。

然るに原審が株式金額が各株式引受人から現実に払込まれて控訴会社の資本が充実せられたかどうかの判断をなさず払込の仮装行為を以て上告人吉野より実際に株金の払込のあつたものであると認定したのは商法第一七七条が各株式引受人の現実の払込を強制している法意を看過し唯外形上の払込を以て真実の払込と認めたもので、これは法令の解釈適用の誤りであり、判決の結果に影響を及ぼすものであるから原判決は破毀を免れない。

第二点 原判決には理由不備の不法がある。

原審判決は「甲第一号証の八(株式払込金保管証明書)、十八「甲第一号証の十七の書損と思はれる)および原審証人梶川、同大島、同原の各証言によれば、控訴人吉野より実際に右株金の払込みがあつたものであること、右払込資金は前示のように第一銀行名古屋支店より借受けたものであり、右銀行は該金員貸付に当つて吉野を主債務者として他の控訴人七名をその連帯保証人としていることが認められるのである」と判示したが、上告理由第一点記載の通り、右払込金全額は控訴会社設立後右全額に相当する小切手を振出し、借入銀行に返済し、右借入金、払込金はいわゆる「見せ金」で払込金は仮装のものである。(同趣旨判例、東京高等裁判所昭和二九年(ネ)第二九二号同三一年六月一二日第四民事部判決・高等裁判所民事判例集第九巻三五〇頁)

原審判決はかゝる借入金による見せ金の仮装払込で会社成立後直ちに会社資本全額欠如の事態を生じているのに、かゝる仮装行為により会社資本充実の原則を充足する理由並に右仮装行為が商法第百九十二条第二項の発起人の責任を除斥する理由を具備していない。別言すれば右仮装行為の法律効果に対する法律判断の理由を欠くの不法がある。

第三点 原判決には当事者の主張しない、而かも虚無の事実を当事者に帰せしめた不法がある。

原判決は「控訴会社が、その成立後右株金二百万円の払戻を受け、これを控訴人吉野に貸付け、同人においてこれを右借入金の弁済に充当している」と認定したが、一件記録中の何れにも当事者はかゝる主張をしたことがなく、又かゝる認定をなし得べき事実も資料もない。否その反対に控訴会社が小切手を以て被上告人等の銀行に対する借入金債務を支払つた事実がある。       以 上

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